孔子に図星を突かれた愛想のいいやつ
おれあの先輩苦手やわ。
なんか会話のキャッチボールにならへんねん。
ああ、あの人な。
なんか向こうが話題出してきたからこっちが乗ったのに、こっちの返事に対しては全然リアクションしてくれんやん。
急にスーンってされるやん。
あれ、おれなんか試されてんの?
確かにそういうとこあるな、あの先輩は。
やろ?
キツいわ~。
しかもそんな感じやのに割と話しかけてくるやん。
どういうつもりやねん。
でもおれは自分で思うけど、あの先輩と結構うまいことやっていってると思うわ。
自負ある、自負が。
そう言われれば自分と先輩で会話が盛り上がってるときあるな。
なんなんあれ?
奇跡でも起こしてんの。
奇跡言うほどの難易度ではないわ。
やっぱな、ある程度の会話のツボがあんねん、あの先輩には。
それをおれが心得てるわけよ。
ツボ、ズボシッってわけよ。
そんなツボあんの?
すごいわ自分。
どんなツボなん?
先輩とうまく話せるようになるツボほしい?
怪しそうなツボやけどほしいです。
あんな、あの人はな、会話がしたいわけじゃないねん。
一方的に話したいだけやねん、多分暇やから。
ほう。
だからな、会話を別に発展させようとせんで言いねん。
「それ〇〇ですか?」なんていう質問なんかせんでいいねん。
えー、しちゃってるぅ。
わたしそれしちゃってるぅ。
そんなんせんとな、ただただ「ヤバいっすね」、「大変ですね」、「すごいっすね」。
この三種の神器を使い回してれば、向こうが勝手にしゃべりよんねん。
えー、それヤバいっすね。
あ、おれじゃなくてな。
その先輩相手にな。
ああ、うん。
そうやな。
でもそれ全然会話として面白くないやん。
そうやで。
でも目的が会話を楽しむじゃないから。
目的は先輩に機嫌良くなってもらうやから。
めっちゃ滅私奉公するやん。
そうよ。
滅せ滅せ、私情なんて。
自我を捨てるんや。
すごいわ自分。
たくましいわ。
したたかやわ。
人には人のツボがあんねん。
乳酸菌みたいに言うやん。
おれ自分でも思うけどそういう感じのん得意やねん。
相手が好きな感じの会話というか、対応というか。
分かんねん、おれには。
マジおれ豊臣秀吉やねん。
草履温めんねん。
ほんまそうやな。
まじでそれは豊臣の秀吉やわ。
サルやわ。
もうな、気づいたら自然と相手に合わせてもうてんねん。
気づいたら懐に草履入れちゃってんねん。
すごいわ、それは。
もう今日からサルってあだ名で呼ぶわ。
それはやめて。
普通に嫌やから。
そういうとこやねん。
そういうとこが自分分かってへんねん。
ああ、ごめん。
思わぬマジダメ出し食らったわ。
でもあれやで。
昔から巧言令色鮮なし仁っていうで。
なにそれ?
愛想を振りまくやつは仁が足りてない、つまり人を思いやる気持ちがなくて軽薄なやつが多いって意味よ。
まあ、うわべだけのやつって感じやな。
ハァ?
え、めっちゃ辛辣やん。
それ誰が言ってんねん。
これ図星やな。
思いのほか動揺しとるわ。
ズボシッて刺さっちゃってる。